中学校でラノベ持ち込み禁止になったお話

唐突に中学時代のことを思い出したので書く。2014年とかそこらのお話。どこの中学校でもあるのかは分からないが、私の中学校には朝読書の時間があった。朝の15分くらいを読書の時間とし、自分で持ち込んだ好きな本や、教室に置いてある学級文庫の本を読むことになっていた。読んで良い本に明確なルール等は引かれていなかったが、基本的に漫画とかでなければなんでも良かったように思う。一時期流行ったワンピースの考察本とか、あるいは厨二病らしく神話の本とか、各自が思い思いの本を読んでいた。そんな中で一番人気があったのはライトノベルだ。これは別にオタクグループに限った話ではない。当時はもはやオタクに偏見があった時代とは違い、いわゆるカースト上位の男子もアニメを見ている時代だった(少なくとも私の地域では)。文章が簡単で中学生の頭でも読みやすく、内容が刺激的なライトノベルカースト問わず広く愛されていた。正直エロい挿絵が入っているライトノベルも多く(というか中学生男子なのでそれが目当てではあるのだが)、教師としては喜ばしくなかったはずだが、変に規制を儲けるのもアレなので黙認していたんだろう。

また、本の貸し借りも頻繁に行われた。というか頻繁に行われすぎてもはや所有者が不明な本が流浪していた。記憶している限り、特に人気だった作品はバカとテストと召喚獣だった。そう、時代を考えると少し古い。バカテスのアニメの放映はとっくの前に終わっていたし、ラノベの刊行は続いていたとはいえ少し世代が違う。これはなぜかというと、地元に本屋がなかったからだ。こう書くとめちゃくちゃ田舎に思われるかもしれないが、少なくとも学校から最寄り駅の範囲でライトノベルを売ってるような本屋はなかった。代わりに駅前に小さい古書店があり、そこで買われた中古のライトノベルが学校で流通していたのだ。少し前に流行ったバカテスが人気なのはこういう事情による。他にはとある系も人気だったり、IS(インフィニットストラトス)は私が持ち込んで流行らせたりした。流行らせたというと大袈裟だが、せいぜい3巻くらいまとめて購入して学校に持ち込めば勝手に流行った。あとは自分が買わなくても続きを読みたい人間が買ってきて自然と全巻が流通するようになる(ただし、その古書店に全巻ある場合のみ有効)。そういうエコシステムが出来上がっていた。貧乏な中学生がお小遣いの範囲で楽しむには中古本がぴったりだ。わざわざ電車に乗って大きめの本屋で新品のラノベを買っているような人間はそれこそ本物のオタクくらいしかいなかった。あの当時はただひたすら安く消費できる作品を探していたのだ。

さて、本題に関係のない説明が多くなってしまったのでそろそろ本題に入る。中学校でラノベが禁止になった原因は全て私にあった。事情はこうだ。

まず私は友達と一緒に大きめのターミナル駅に遊びに行き、アニメイトに行った。そこで初めてラノベを表紙買いした。人生で本を表紙買いしたのは現時点でこれが最初で最後だ。とにかく面白い表紙だった。具体的な作品名を挙げるのは憚られるので説明すると、女性がパンツをかぶっている表紙だった。これは面白い。早速買って学校に持ち込んだ。しかし、それは校内で流通させるためではない。ちょっとしたイタズラのためだ。

まずその本を持って隣のクラスに行き、テキトーな人間を呼んで「〇〇にこの本を借りてたから返しといてくれ」と伝えた。しばらくした後にそいつが「なんだよこれ笑」とか言って突っ返してくる、というのが私の想定だった。その程度のイタズラができれば良かった。しかし、なんの音沙汰もないままに数日間が過ぎ去っていった。そして、その本の行方も知れなかった。流通していれば誰が持っているかくらいすぐ分かったのだが、流通しているわけでもないらしかった。本はどこにいったのだろう。

一週間くらい経ち、朝読書の時間にライトノベルを持ち込むことを禁止することが朝のHRで伝えられた。女教師は理由を伝えづらそうにしていたが、「あのー...エロい本とかを持ち込む人もいるので...」みたいな説明をしていた。あっ、俺のせいだなと思ったが、特に呼び出されたりはしなかった。イタズラをしたきり自分から反応を伺うのも野暮だなと思ってそれまで接触していなかったが、こうなっては話を聞くしかないと思って〇〇と話した。すると、彼は衝撃的な事実を語った。なんと、彼はイタズラを仕掛けたあの日、体調不良で休んでいたのだ。そもそもイタズラを仕掛けるのに出席すら確認していないとはなんたる計画の杜撰なことか。その本は彼の机に置かれ(せめて引き出しに入れておいてくれれば事は大きくならずに済んだのに...)、通りすがりの生徒が興味本位で開いては笑い、ついには担任の知るところとなったのだ。どうやら本はその担任に回収されたらしい。彼は後日登校してから責められたが、その日は休んでいたというアリバイがあったためなんとか逃れられたと言っていた。

事態が少し複雑なこともあり、私が直接の原因であることは何人かを除いて知られてはいなかった(知られていたらどうなったことか身震いがする)し、私自身もシラを切っていたために特に私が責められることはなかった。しかし、ちょっとしたイタズラのせいで最も人気の高いライトノベルが禁止されるというとんでもない事態を引き起こしてしまった。それからしばらくの間、生徒はライトノベルを読むことを自粛していた。自粛という表現を使ったのは、ライトノベル禁止を発表してはいるものの教師が何ら実効的な対策を取っていなかったためだ。一人一人が読んでいる本を検閲するようなことはなされなかった。発表から一週間も経たぬうちに、生徒はまたライトノベルを読み出した。それは当たり前だ。何のペナルティもないのだから。教師が見回りに来たときに挿絵のページを開かないようにすることくらいを注意すれば何の問題もなかった。タイトル詐欺みたいになってしまったが、結果として状況は前と何も変わらなかった。次第に私が原因だと知り始めた生徒も多いが、このおかげもあって私が責められることはなかった。

さて、あの本はどこに行ったのだろうか。あのクラスの担任の女教師の家のゴミ箱にでもぶち込まれたのだろうか。アレ以来二度と見ることはなかった。今でも覚えている。アニメイト特有の透明なビニールカバーの上から、何重にもブックカバーをかけられたあの本のことを(できるだけヤバい本に見せるためにあえてそうした)。ちなみに、その作品はそれから一年後にアニメ化が決定された。その頃にはアニメやラノベに興味がなくなっていたが、それを聞いて何ともいえぬ感慨深い感情を覚えたことを思い出す。おしまい。